本日、韓国でMARS治療済みとされた患者からMARSウイルス陽性反応が出た件に関して、私の考えを述べます。

該当のニュース記事はこちら⇒
韓国でMERS陽性判定 死んだウイルス検出の可能性も
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 今回の記事では主に当該の患者が生きているMARSウイルスに感染しているか否かについて書きます。


①MARS感染の診断法

 まず、MARS陽性の診察を下した診断法について考えてみましょう。

 現在、MARSウイルスの感染の有無を診察する方法として主に用いられているものはRT-PCR法のようです。
   ⇒中東呼吸器症候群(MERS)に関するQ&A
 (ただし、リアルタイム-の方ではなく、逆転写酵素-の方)

 この検出法は、患者の体液を採取しその中に含まれているウイルスの遺伝子を増幅させることで、仮にその中に含まれている遺伝子が微量であっても検出可能なレベルまで遺伝子を増やすことが出来る方法で、PCR法自体はウイルスに限らず細菌の感染の有無にも用いられている非常にメジャーな方法です。

 すなわち、この診断法で検出されるものはウイルス本体ではなく、ウイルスの遺伝子なわけです。
 
実際にウイルス本体を検出したい場合は顕微鏡観察、あるいは各種の染色法などありますが、結局体液に含まれるウイルス濃度が低すぎた場合検出されないこと、観察者のスキルに依存し、時間も膨大に必要であることから、あまり一般的ではないようです。

 PCR法で遺伝子を増幅させる方法は、ウイルスの遺伝子に特異的な部分を認識させて、あとは温度を上げ下げするだけ(機械が自動で行う)というシンプルなもので、ここでヒューマンエラーが起こる可能性は、試薬の取り間違え以外には考えられないと思います。

 今回、この検出法でMARSウイルスが検出されたことで、
 ここで、一つ確実な事実として、サンプルのコンタミネーション(異物の混入)がない限り、
『患者の体液中にウイルスの遺伝子が存在していることは確実である』ことが宣言できます。



 次に、ニュース記事にもありましたが、患者の体内に生きているウイルスが存在するか否かについて。

 確かに、細胞が死んでも遺伝子自体は一定時間残るわけです。
 PCR法は遺伝子を化学的に増やすだけですので、死細胞の遺伝子も検出してしまうことが欠点として広く知られています。
 (本当に生細胞か否かを判定するには、今回の記事にもあるように培養であったり、あるいは普通の細胞の場合は酵素の活性などを見る方法があります。)
 
 ただし、それは通常の細胞の場合です。

 今回問題に上がっているのはMARSウイルスであり、遺伝子の本体はDNAではなくRNAです。

 二本鎖で安定性を保っているDNAに比べて一本鎖のRNAは化学的に非常に不安定です。
 さらに、我々の身体のいたるところにはRNA分解酵素と呼ばれる酵素が存在しており、体内のRNAは速やかに分解されることが知られています。
 
 この酵素は平常時であれば、我々の細胞が製造するmRNAを分解し余分なタンパク質を合成することを防ぐ酵素であると同時に、外来のRNAを分解する働きも持ちます。

 この酵素は体内のみならず、体液、体表にも存在し、そのためRNAを扱う細胞実験では細心の注意を払わなければ、まともなデータが得られなくなるという頭の痛い話もあります。

 閑話休題

 そのため、ウイルスの外殻が無事な状態ならまだわかりませんが、仮に今回検出された遺伝子が10月1日の退院の時点ですでに死んでいたウイルスのものであった場合、(死んだウイルスというのは外殻が壊れているわけなので)9日もの間、RNA分解酵素に溢れた体内で安定して存在していたことになります。
 ちょっとそれは僕には納得しかねます。

 以上をもって、私は今回のMARSウイルス検出に際して
 『コンタミネーションがない限り、検出された遺伝子は生きているウイルス由来のものである』
 と推測します。

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 結果が出るのは培養試験後という事ですが、ウイルスの培養試験ってどのくらい期間が必要なんでしょう?
 一週間くらいですかね?

 また、体内でのRNAの安定性について具体的なデータがないか調べましたが、ありませんでした。
 それでも、さすがに1週間RNaseにまみれて安定してるなんて言うのは考えられないです。
 科学のことなので絶対はないですが、そんなに安定していられるならRNA実験はもっと簡単なはずです。