標記の記事
がツイッターのトレンドに入り、話題になっていたため、少し書く。
1.記事の内容
 論文化されてるのか不明だが、それっぽいのは見つけられなかったため、プレスの内容をまずまとめたい。(注:インフルエンザウイルス以外のウイルスを用いた検討は林京子教諭がセカンドオーサーの論文が数件あり


【実験内容・結果】
 A型インフルエンザに感染させたマウスにラムナン硫酸を投与するとウイルス量の減少と抗体量の増加が認められた。

【考察】
A型インフルエンザとコロナウイルスは共にエンベロープを有するRNAウイルスであるため、ラムナン硫酸はコロナにも効く可能性がある。また、ラムナン硫酸はアオサに含まれる。
ラムナン硫酸が有効であった理由は、「ウイルスのエンベロープ中のタンパク質が生細胞へ付着しようとするのを阻害する」ことと、「腸管に集中する免疫細胞を活性化して抗体の産生を促進する」ことによるものだと思われる。


プレスの内容ではさすがに背景の設定に無理があったと思うため、ここでは記事中の研究背景にあたる部分を【考察】項にまとめたが、おおむね間違ってはいないと思う。
以降、所感を述べる。


2.所感
 初見時の所見としては、「インフルエンザで元々研究しており、何とかして背景にコロナをくっつけたんだろうなあ」と、その辺りのロジックの無理やりさに苦笑しながら記事を読んでいた。まあ、とりあえず、一つ一つ見ていこう。


 まず、この手の研究につきものの疑義として、⓵投与量 と②投与経路の問題がある。
 投与したラムナン硫酸の量が常識的な量なのか、莫量なのか。投与経路は経口なのか、血中投与なのか。また、ラムナン硫酸は経口吸収されるのか、効率はどうなのか。プレスには全く触れられていなかったため、なんとも判断できない。

 また、蛇足かもしれないが、この研究からアオサの有用性を述べるのであれば、そもそもアオサに含まれるラムナン硫酸の量からして不明である。


 次に、インフルエンザウイルスとコロナウイルスについて。
 これについては、プレス中の書き方でも大分無理をしている感がある。確かに、両者ともにRNAウイルスであり、コロナウイルスの一つであるMHVでは、エンベロープ上のタンパク質において類似する構造を有する箇所もあるらしい(参考:コロナウイルスの細胞侵入機構)。

 しかしながら、この例においては、あくまでMHVとインフルエンザウイルスの相似に過ぎない。一口にコロナウイルスといっても様々な種類があり、これをもって新型コロナに有効かもしれないとするのはオーバートークが過ぎる感が否めない。

 おそらく、考察において「ウイルスのエンベロープ中のタンパク質が生細胞へ付着しようとするのを阻害する」という機構に繋げるためにエンベロープを有するRNAウイルスという相似点を挙げたのだろう。しかし、先に上げた「コロナウイルスの細胞侵入機構」中においても、同じコロナウイルスであるMHVとSARS-Covでは異なる機構で細胞内に侵入することが述べられており、いささか以上に論拠に書ける主張だと感じる。


 もう一方の機序として挙げられている「腸管に集中する免疫細胞を活性化して抗体の産生を促進する」については、乳酸菌飲料のページでもご覧になっていただきたい。
 とりわけ特殊な性質というわけでもなく、健康食品の売り文句としてよく使われるフレーズである。


また、記事中に述べられている
ラムナン硫酸は、体内で常に異物と認識されて免疫細胞を元気づけるため、ウイルスがやってきた時には素早く抗体を作り出すことができ、しかもそのウイルスがどのような種類であっても対応できるという特性
については、いわゆるアジュバントと呼ばれるものであり、しばしばワクチン否定派の方々が槍玉に挙げられる。
 これもとりわけ珍しいものでもなく、”多糖類ならまあ、ありえるよね”、といったところで何とも言えない。そもそも既存のものであっても、アジュバントの機構からして、総じて不明な点も多く、こういった研究の文脈で上げられると、機序が想定できなかったものを、角が立たないように丸めてる感がある。


 これら考察については、実際にどの程度の検討を行っているのかもプレスの情報では不明のため、なんとも言えないところはあるが、総じて健康食品系の有用性研究ではよくある機序を上げてるようにしか感じなかった。
 まさか、データはマウスでの検討一つだけで、機序の検討は全く実施していないということはないだろう。きっと。


 この研究は、記事中にあるように「ウイルスがどのような種類であっても対応できる」研究であるといえば聞こえはいいが、これは、いわゆる「免疫力を高める健康食品」以上の文句ではない。


最後に一点だけ、このプレス中において不可解な箇所がある。
冒頭では、
「あおさに含まれるラムナン硫酸を培養したウイルスに接触させたところ、高い抗ウイルス活性を示した」
と触れられてはいるものの、以降の研究内容はマウスのものだけであり、細胞を用いたin vitroの実験については触れられていない点である。
 ふと、今書いてて思ったが、この箇所は林教諭が1999年や2010年に出したHIV等を用いた論文の内容を言っているのかもしれない。文脈的にコロナを用いた研究だと思っていたが。



 ここまで、散々に書いてきたが、個人的にはこの研究はさておき、研究者として名前が挙がっている2名には好感を持っている。
 持っているデータを社会的インパクトの強い方法でまとめる。このことは社会が求めているアカデミアの研究者のあるべき姿であるといえる。
 きっと予算獲得にも強く、また企業へのパイプも太く、学生の就職にも強い研究室なのだろう。